羅臼の自然
目梨郡羅臼町、東の先にある自然。
知床はアイヌ語のsir・etok(シリ・エトク)に由来する。
その意味は「大地の突き出たところ、鼻先」。目梨郡のメナシは「東」のこと。
東に突き出た大地、日本の最東北端にある知床半島には
海と陸の遺産が残されている。
世界自然遺産の知床半島
知床半島のはじまりは海底火山、そして、羅臼岳をはじめとする知床連山の火山活動によって、まるで海からせり出すように半島の形が作られました。また、流氷が溶岩を侵食し、険しい地形を生み出します。
この平地の少ない勇壮な姿の半島では多様な命が生まれ、つながりを持って生きています。その鍵となるのが取り囲む海。冬の使者・流氷は海を閉しますが、知床の海にプランクトンを運び、栄養をたっぷり与えてくれます。豊かな海で大きく育ったサケたちが川へと帰り、陸の生物の栄養となる。陸の生物は大地の栄養となり、陸のミネラルを含んだ水が川となり滝となり、海へと戻るのです。
これらの「海・川・森」が支え合う環境により、絶滅危惧種を含む多様な生物が育まれていることが評価され、2005年7月、知床は「世界自然遺産」に登録されました。
野生の密度が濃い、知床の生きものたち
羅臼とはアイヌ語のラウシ、獣の骨のあるところに由来する言葉。
古くから野生動物と関わって来た暮らしを想像させる名前です。
断崖絶壁が連なる知床半島ですが、羅臼のある半島の東側は流氷の激しい接岸が少なかったことから、比較的なだらかな海岸も見られます。岬まで昆布漁の番屋がいくつも点在し、そこに現れるのがエゾヒグマ。日本で北海道だけに生息する山の神、キムンカムイです。知床の険しい地形もなんのその。海岸から高山までを利用して、草や木の実、秋にはカラフトマスを求めて歩き回ります。海岸では漂着したクジラなどのごちそうにありつくことも。ヒグマのおこぼれを狙って現れるのがキタキツネ。上空や近くの樹木からはオオワシやオジロワシが大きな羽を広げてタイミングを見ています。トビが勇気を出して近づくと、すかさずカラスが横取りして。遠くの笹藪ではエゾシカが数頭のぞいています。
野生のドラマを繰り広げ、多彩な環境をすみかに多くの動物が暮らしている知床半島。哺乳類は陸上で36種、海生で22種、鳥類は285種も確認されています。中には絶滅危惧種のシマフクロウやオジロワシ、クマゲラも生息。オオワシの越冬地としても世界的に貴重な地域と言われています。
海岸から草原、低山帯、高山帯と短い距離の中で違う環境が隣り合う知床では植生も多彩。高山植物も多く、固有種シレトコスミレをはじめ希少種も残されています。
「海・川・森」の繋がりのどれが欠けても、これだけ多くの生物のゆりかごとはならなかった知床。原生の自然の中で、今もたくさんの生き物たちが生きています。
野生動物と隣り合わせの町で
番屋の近くで漁具の手入れをしている漁師。少し離れた海岸をヒグマの親子が歩いているが、漁師もヒグマも近づくことはなく素知らぬふり。一方、餌付けやポイ捨てされたゴミがきっかけとなり、結果、人の暮らしに近づき過ぎて捕獲されてしまうヒグマの悲劇。知床を訪れると、こうしたヒグマとの距離感を考えさせられる話をたくさん聞くでしょう。
知床では人の暮らしと野生動物の行動範囲が重なるのが当たり前。特に生息地を散策する時などはマナーについて知っておくのが常識です。正しい知識を身に付ければ、やみくもに怖がる必要もありません。
ぜひ、各センターで情報を集めたり、レクチャーを受けて、知床の自然を知ってください。世界自然遺産の旅が、さらに楽しく感動的になるはずです。